2020.04.17 講師紹介

2014年 第7回全日本最優秀ソムリエコンクールに挑戦して(5)

13.幕切れ

「ベスト12に選ばれてからが勝負」 ずっとそう思っていた。しかし、最後まで番号を呼ばれることはなかった。

、、、終った。

なんともあっけない幕切れ。だが勝負とはそういうもの。
自分の中では、まだ始まったばかり。やっと身体が温まってきたという感覚だった。

が、しかし、この闘いは、ここで幕を閉じた。

後悔がないと言えば嘘になるだろう。だが、これも全て実力。

ファイナリストとの違いは明確だった。

「集中力」と「勝ちたいという執念」そして、この「3年間の過ごし方」
決勝戦を見て、どれも自分は、足りていなかったのだと。

サービス実技では、問題内容を聞き漏れるという、痛恨のミスを犯した。

審査員の意図するとおりに進めていないのなら、それは大きな減点対象だ。

まして実技の配点が最も高いとされていることから、これは自分にとって致命傷とも言えるミスだった。

勝負への意識がもっと高かったなら・・・

審査員の指示も、一言一句聞き漏らすまいという集中力は、もっと出せていただろう。

むしろ、もう一度聞き返すぐらいの執着心は出ていたはずだ。

大舞台に必要な、3つのどれもが足りていない結果が、この一瞬のミスに現れたのだと思う。

だが全ての言い訳はない。

これが今の実力。

そう理解し、ここからまたスタートしていく決意をした。

 

 

14.ファイナル

最後の3名に残ったのは、石田博さん。野坂昭彦さん。岩淵真さん。

石田さん以外のお二人は、現在海外のレストランに勤務している。

サッカーで言えば、まさに「海外組」。

今回の課題が、全て外国語で行われたことを考えると、他のソムリエを凌駕した彼らの成果は、「国際経験」という形で結果となり、現れたのは、もしかすると少なからずあるのかもしれない。

「ソムリエ」という職業が、まさに国際的な経験とスキルを求められるということが、今大会の結果を通して現れたように思える。

公開決勝(全て選択外国語での解答)

「黒いグラスでのブラインドテイスティング」

「寿司のコースに合わせて、アジア・オセアニア圏のワインを全て違う国のもので提案する」

「日本のワインリストの間違い探し」

「ダブルマグナムの赤ワインをデカンタージュし、12名のゲストへサーブする」

ここまで残った3名の強者でさえも、大苦戦するほどの難しい課題内容。

しかし、この大観衆を前にして、別格とも言えるプレゼンテーションを見せたのは、2000年のカナダ モントリオール大会で、世界3位という実績を持つ、石田博さんだ。

「L’intensité, discret, plutôt férmé… Légère touche de noyeux, un peu, un petit peu
de touche empyrmatique,.. Le nez, c’est pas très exellement…」

黒いグラスに入った完全ブラインドで供されたワインに、始め戸惑いの表情をされながらも、フランス語でのコメントは、とても流暢で、何より「優雅さ」を感じた。
コメント一つ一つにエスプリを感じる、優しく投げかけるようでありながらも、徐々に力強さを増していくようなコメントに、引き込まれていった。

サービス実技では、さらに他を寄せ付けないほどのパフォーマンスを見せた石田さん。

まさにエースピッチャーを彷彿とさせるマウンド捌きを見せ、今大会のラストを飾った。

 

 

15.「空気をつくる」

レストランにおいて、料理をつくるということをしないソムリエの役割、使命とは、一体何なのか。

ワインリストを作成し、ワインを管理、説明し、料理やそのシチュエーションに合ったアイテムを、最も良い状態で、エレガントにサービスをする。

もちろん、それも大切な仕事であるのは間違いない。

私が考えているソムリエの大事な役割とは、

「空気をつくる」ということ。

けして目立つ存在ということではなく、ゲストが主役であるレストランという舞台において、開演前に、周到な舞台準備を整える。

いざ開演すれば、黒子に徹しながらも、そのソムリエがいることにより、安心してゲストが、食事やワインを楽しむことができる。

優雅な立ち振る舞いをもって、「気づき」という武器を手に、空気をつくっていく。

まさに、今大会の石田さんは、会場全体の空気をつくり、そしてチャンピオンに選ばれた。

大会の最後に行われた懇親会で、自身の最終結果は、全国からの本戦出場者32名中の16位と発表された。

大きなミスを犯したことによる、不甲斐ない結果。

だが、周りはそれでも、よく頑張ったと声をかけてくださる方々もいたが、

自分の中では、けして誇ることのできない、完全なる敗北と言える結果に終わった。

 

 

16.「No pain, No gain.」

読書は昔から大好きで、今も年間100冊以上のさまざまなビジネス書籍を読んでいる。
ソムリエとして、経営者として、講師として。一人の人間として。

常に自分に必要とされるものを探し、その時々に応じたテーマを選び、がむしゃらに本を読んできた。

ちょうど先日読んだ、ある経営者の方の本に、このような一説が書かれていた。

「No pain, No gain.」痛みのないところに前進はない。

まさに今の自分に刺さる一言。

この痛みは、次に勝利を手にするまでは、ずっと消えることはないだろう。

しかし、「挑戦なきところに栄光はない」

今回、勇気をもって挑戦していなければ、こんなにも多くの、何にも代え難い経験することは、けしてなかっただろう。

この挑戦により、たくさんの痛みを伴ったのは事実。しかし、それ以上にたくさんのことを得ることができたのは、間違いない。

「次の挑戦」に向けてまた、勇気を持って、小さな一歩を踏み出していきたいと思う。

 

 

 

Author

田邉公一

Tanabe Koichi

  • 日本ソムリエ協会認定 ソムリエ
  • 日本ソムリエ協会認定 SAKE DIPLOMA
  • 日本ソムリエ協会認定 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL
  • WSET Level3 Advanced Certificate
  • フランス語検定準2級
  • ソムリエ資格対策[実戦]講座,SAKE DIPLOMA講座,ステップアップ講座,WineLover 【中級】レベル2講座
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